北方謙三の講談社創業100周年記念出版作品「抱影」を基に加藤雅也主演で映画化。横浜・野毛で酒場を営む画家が、街に渦巻く闇の世界に飲み込まれていく姿を描く。メガホンを取ったのは、国民的大ヒットドラマ「相棒」シリーズでメイン監督を務めた和泉聖治。横浜を舞台に、ハードボイルドの真髄ともいえる原作の世界観をスタイリッシュな映像で表現している。透明感あふれる存在感が魅力的な女優・中村ゆりは、加藤が演じる主人公の画家・冬樹とプラトニックな関係を続けている人妻・響子役で出演。役への思いや“純愛”を貫く男女の関係などについて語ってもらった。

「こういう愛の形もあるんだなと気付かされました」

 
Q. 本作は“THE男の世界”というストーリーが展開されますが、脚本を読んだ感想は?
「“男のロマン”みたいなものってこういうことなんだって興味深く読ませていただきました。監督の和泉(聖治)さんとは、以前お仕事をさせていただいたことがあって。和泉監督も“男”というイメージがあると思うんですけど、ご一緒した時は男女の繊細な機微を描いた作品だったんです。監督ご自身も、ロマンチックですごくクレバーな方という印象。今回は、男たちの世界の物語が展開される中、恋愛パートをやらせていただけるということで、きっと和泉監督なら繊細に撮ってくれるだろうという安心感がありました」
Q. 響子はどんな女性だと捉えながら演じていましたか?
「今回の映画に関して思ったのは、加藤雅也さん演じる冬さん(冬樹)という人にとっての象徴であるべきなのかなと。孤独で破滅的な生き方をしている芸術家の冬さんが絵に描いたぐらいの理想的な女性なんですよ、響子は。そういう女性が目の前に現れた時にどういう見え方をすればいいのか。いろいろ考えたんですけど、理想の女性でありつつ、母のようでもあり、また冬さんが守りたいと思う娘のように見えたらいいのかなって。この作品の中では、多面的な象徴であるようにいるべきなのかなと思いました。だから、ものすごく男っぽい世界観の中にいる響子って、女性から見ると結構あざといところもあったりするんです(笑)」

 
Q. どういうところに、あざとさを感じますか?
「二人で過ごす時間が終わってお別れするときに、敬礼のようなポーズをするところ(笑)。私はいつも自分が何を求められているのかを考えながら脚本を読んでいるんですけど、やっぱり今回の作品では女性の目線からではない、男性にとっての理想みたいなものを表現する方が正解なんじゃないかなと思ったんです。だから、ちょっとやりすぎかなと思うぐらいやってみました(笑)」
Q. あの “敬礼ポーズ” は、もともと脚本に書いてあったんですか?
「小澤(和義)さんの脚本に書いてありました(笑)。冬さんと一緒にいる時にお腹が減った響子がちょっとくだけた感じで語尾に『~だぞ』って付ける口調もアドリブではなく台本に書かれているセリフをそのまま言っていました」

 
Q. 10年以上、純愛を貫く冬樹と響子の関係については、どんな風に思っていましたか?
「響子はお医者さんなので、人一倍勉強しただろうし、真面目に生きてきた女性なんだと思うんです。そんな彼女が冬さんという異質な対象と出会い、自分の人生において解放された時間を過ごすことができたんじゃないかなって。冬さんから触れてもらえないという寂しさもあるけど、何よりも大切なものとして扱ってもらっているということを強く感じていたような気がします。何かすごく独特な男女の関係性ですよね。劇中では、冬さんと響子の抽象的だけど、なかなかディープな愛情の交わし方が描かれていたりして。改めて、こういう愛の形もあるんだなと気付かされました」
Q. 冬樹との関係が続く中、夫に対する響子の思いは?
「まぁ、罪悪感があったんだろうけど、冬さんとはプラトニックな関係だったという点が大きいような気がします。これは勝手な女性側の言い分なんですけど…、夫は自分の人生を生きていて、自分の時間もしっかりあるんです。響子も医者という仕事を持っていて、それなりの収入がある。お互いに自立していたから、響子はある意味自由にさせてもらっていたのかなと。だからと言って、やっぱりそれがいいとは言っちゃいけませんよね(笑)。でも、完璧に生きられている人って少ないんじゃないかなと思うので、映画のお話の中ぐらいちょっと悪いことをしたっていいじゃんという思いはあります」

 
Q. 響子が自分の余命を冬樹に告げるシーンはとても印象的。
「響子自身は、すごくつらかったと思います。家で一人でいる時は暗い顔をしているというシーンもありました。ただ、医者である響子は周りの人が悲しむことを知っていますから、なるべくそういう思いをさせたくなかったんじゃないですかね。だから、深刻な感じで伝えるのはやめようと考えたのかもしれない。響子は、男の世界が展開される作品の中でものすごく女性らしい描かれ方をしているんですけど、余命を告げるシーンでは彼女の強い一面が見えるんです。自分なりに大切な人がどうやったら苦しまずにいられるかという選択をしたのかなと思っています」
Q. ビートきよしさんが登場する定食屋さんのシーンでは冬樹と響子にも笑顔があって、どこかホッとする場面になっていますね?
「あのシーンは、カットが掛かるまで自由にしゃべっていた記憶がありますね(笑)。(加藤)雅也さんは、芝居の間とかを大胆に使われる方で。闇の世界に飲み込まれていく男たちのハードなシーンとは違って、冬さんと響子が一緒にいる時はリアリティーを大事にしながら感情を交わしてくださったような気がします。響子に対する時にとても愛しくというか優しい目で見てくださるんですよ。その雅也さんのお芝居に助けられたこともあって、何で響子が冬さんのことを好きになったのか、自分の中で腑に落ちたような気がします」

 
Q. 作品のタイトルにちなんで“眠り”についてこだわっていることはありますか?
「私はものすごく寝つきが悪いんですよ。役者さんは割とそういう人が多いみたい。結構仕事のことを考え続けてしまうので、リセットする意味で寝酒を飲んでいます。ビールや焼酎、ワインなど、ベロベロにならない程度に飲んだらスッと寝られます」
Q. 役によってはオン・オフの切り替えが難しいこともあるんですか?
「私生活に影響が出るようなことはないですけど、何か重いものを抱えているような役だったりすると、ちょっと負荷がかかることもあります」
Q. そういう時は、ご自身のインスタにたびたび登場する愛犬が癒やしに?
「そうなんです! 仕事からかけ離れた存在ですし、邪気がなくて無垢だからすごく癒やされます。毎日一緒にいる時間が楽しいです」
――ありがとうございました。

映画情報
映画『影に抱かれて眠れ』
9月6日(金)公開


©BUGSY

©BUGSY

©BUGSY

 
あらすじ
冬樹(加藤雅也)は、横浜・野毛の街で2軒の酒場を経営する画家。絵を描き、酒を飲み、自らの経営する店を巡回するのが彼の日常だった。そんなある日、冬樹のことをを兄貴と慕う信治(カトウシンスケ)が大ケガを負う事件が発生。信治は、横浜の街の闇に飲み込まれた女の子たちを救い出す活動をしていた。やがて、男たちの抗争に巻き込まれようとする中、冬樹は10年以上純愛を貫いている人妻・響子(中村ゆり)の余命を知ることに。冬樹の周囲がひときわ騒めきだし、彼の平凡な日常は大きく崩れ始めていくが…。
出演
加藤雅也、中村ゆり、松本利夫、カトウシンスケ、若旦那、熊切あさ美、山口粧太、中山こころ、余貴美子、火野正平/AK-69
原作
北方謙三
脚本
小澤和義
監督
和泉聖治
映画『影に抱かれて眠れ』公式サイト

撮影:伊東隆輔 取材・文:小池貴之

※この記事はauテレビでも掲載されました。
http://sp.tvez.jp/(スマートフォン向けサイトです)
この記事を書いた人
ウィルメディア編集部
<ご案内>
各種試写会や取材のご依頼がありましたら、お気軽にお問い合わせください。
こちらでご紹介させていただきます。

ログインする

詳細をお忘れですか?