クイーンの伝記的映画『ボヘミアン・ラプソディ』が人気ですが、その『極上音響上映(通称極音上映)』に行ってまいりました。『極上音響上映』とは何なのか、詳しくお伝えします。
ポスターには、『映画館音響を新たなステージに引き上げる 極上音響上映』『日本を代表する音響家による「この作品に最適な」音響調整を行った上映です。』と明記してありますが、どういうことでしょうか。
私はクイーンのファンではありませんが、この映画を見るのは2回めで、1回めはTOHOシネマズ日比谷でIMAXで見ました。ドルビーアトモスの上映もあり、音楽映画だから音で選ぶべきとも思いましたが、理由は時間が合わなかったことと、もう一つは音楽を聴くのにオブジェクトオーディオの概念があまり活きないのではとの思いもありまして。
こちらの音は、TOHO系列全般が映画系シネコンなので、シネコンとして悪くはない音ですが、背面スピーカーの音も強くサラウンド全開で、どちらかといえば映画の音という調整です。ライブのシーンなど、もうちょっと気の利いた音の再生は出来ないものかと思いました。一緒に行った人間も「音楽は普通のステレオで良いのに」と言っていました。
その後、立川シネマシティシネマ・ツーで『極音上映』をやっているのを知り、音を聴き比べてみようと思いました。

『極上音響上映(極音上映)とは』

こちらの『極音上映』を説明しますと、まず設置されたスピーカーが違います。Meyer Soundというメーカーの中でも主に野外の音楽イベントなどで使用するための大型スピーカーを大量に設置し、通常より大きな音量で鳴らしています。スピーカーの構成を作品によって変えることもあり、まさに音をもうひとつの主役に仕立てたロードショーです。
もう一つの特長は、プロのサウンドエンジニアが実際の劇場で作品のサウンドトラックを聴きながら調整しているということです。音楽のライブにおいてエンジニアが会場ごとに最適なサウンド調整するというような工程を、映画館で実践しているわけです。
今回のボヘミアン・ラプソディでは、作品後半のライブエイドのシーンに焦点を合わせてサウンドを調整しているという触れ込みでした。自分がもう一回観ようと思ったのは、そのライブエイドのシーンの音をこっちのシステムで聴きたかったからにほかなりません。

この映画はライブの再現がすごい!面白い!

映画についてはすでに多くの人が評価をされていまして、レビューサイトでは平均4点代後半に近い高評価を得ています。自分の感想としましては、映画としてはそんなに高く評価できるものでもありませんでした。ストーリーは音楽を聴くためにあるようなもので、話自体に惹きつけられることはありません。主演のラミ・マレックも、全くフレディーマーキュリーには見えません。ただ他のメンバー、特にブライアンメイなどは似ているように思います。
ではどうやってこの作品が成立しているかというと、ただただクイーンの楽曲の良さ、歌詞の良さと、ライブの良さ、それに尽きます。
歌詞の良さについては、映画だからこそ利点を生かしているように思います。観る人の心をストーリーで操作したところにクイーンの楽曲が的確なタイミングで登場することで、歌詞により深い意味やメッセージを感じるように全体的に設計されているのだと思います。
ライブについては、特にライブエイドのシーンがとても良いと思いました。今はなきウェンブリースタジアムを再現し、ステージ上のセットやカメラマンブースなどディテールまでそっくりに再現されています。そして、すでに公開されているライブエイドのフィルムにないアングルで見せていることだけでも面白いのですが、さらにライブパフォーマンスを見るさまざまな人達のリアクションも映画ならではの手法で再現されています。ステージの感動がスタジアムから遠く離れたところまで、それこそ世界中に伝わっていく感じが上手く表現され、それらがスクリーンの中の歌の感動を何倍にも増幅させます。本当にこのライブシーンのためだけでもこの作品にお金を払う価値があるように思います。(実際、2回目の鑑賞はこのシーンのためだけのようなものです)

『極音上映(極上音響上映)』の感想

こちらの音は、今どきの映画上映にもかかわらず、ほぼフロントスピーカーしか鳴ってないように思いました。ひょっとしたらわずかにリアスピーカーを使っていたのかわかりませんが、フロントからの音しか感じないような調整をされているように思います。サラウンドに慣れた耳にははじめ違和感を感じますが、これは正解で、そもそも音楽ライブって前からしか音が来ないのが当たり前だし、これらのライブのオリジナルの音源は2chのステレオなはずです。一番コンディションよく音楽を聴けるのはフロントの2chステレオだと思います。
音量は、爆音というほどうるさくありません。古い録音を上げすぎてもアラが出るでしょうし、かといって音量的な物足りなさはなく十分な大音量です。音質も、自然で良いバランスです。ライブエイドのシーンが鮮やかに蘇ったように思います。
こちらの劇場には『極上爆音上映』というものもあり、主にアクション映画などを最大のボリュームで観ようという試みですが、こちらはあくまで『極上音響上映』なので、ちょうど良く音楽を楽しめる調整をしたのでしょう。自分の結論としては『この音で観られて良かった』です。

立川シネマシティとは

立川シネマシティはシネマ・ワンとシネマ・ツーの2館に計11スクリーンを持つ地域型シネコンですが、常時開催されている『極上音響上映』『極上爆音上映』には数千万の超弩級スピーカーシステムを導入しているにもかかわらず、視聴料金は据え置きです。独自のネット予約は20分前までキャンセルが出来たり、有料会員(半年600円)になることで、毎回1,000円で映画が見られるなどファン目線の独自のサービス目白押し。その独自のポジショニングと映画鑑賞のイベント化で全国から客が集まっています。興味を持たれた方は一度『極上音響上映』『極上爆音上映』を体験してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人
近藤圭介/デザイナー・アートディレクター
多摩美術大学グラフィックデザイン卒業後、広告代理店に勤務しCMプランニングなどをしていたが、その頃には珍しかったMachintoshがある制作会社へ移動。グラフィックはじめ店舗開発や商品企画などいろいろなデザインに携わる。

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